
著者
税理士法人SWATS
代表 柴田 潤
関西大学商学部卒業後、2002年に税理士法人SWATSに入社。資産税・相続税を専門とし、税務と法務の両面から相続をサポート。登録番号:第132969号/近畿税理士会神戸支部所属。
目次
身近な方が亡くなり遺産相続が発生したとき、「財産を受け取りたくない」「借金を引き継ぎたくない」と考えることがあります。
このとき混同しやすいのが、財産放棄と相続放棄です。
どちらも「相続しない」という意味で使われることがありますが、法律上の効果や手続き、借金への責任は大きく異なります。
この記事では、財産放棄と相続放棄の違い、メリット・デメリット、手続きの流れ、必要書類、注意点を比較表つきで解説します。
相続放棄には原則3か月の期限があるため、迷っている場合は早めに全体像を確認しておきましょう。
・財産放棄は遺産分割協議で財産を受け取らない合意をする方法です
・相続放棄は家庭裁判所で相続人としての権利義務を放棄する手続きです
・借金を避けたい場合は、財産放棄ではなく相続放棄を検討する必要があります
・相続放棄は、原則として相続の開始を知ったときから3か月以内に申述します
財産放棄と相続放棄の違い

財産放棄と相続放棄の最も大きな違いは、相続人としての地位が残るかどうかです。
財産放棄は相続人間の合意で財産を受け取らない方法ですが、相続放棄は家庭裁判所を通じて相続人としての権利義務を放棄する手続きです。
| 比較項目 | 財産放棄 | 相続放棄 |
|---|---|---|
| 意味 | 遺産分割協議で財産を受け取らない合意 | 相続人としての権利義務を放棄する法的手続き |
| 手続き先 | 相続人同士の話し合い | 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
| 借金への責任 | 原則として残る | 原則として引き継がない |
| 期限 | 法律上の申述期限はない | 原則として相続の開始を知ったときから3か月以内 |
| 相続順位への影響 | 原則として変わらない | 次順位の相続人へ影響することがある |
財産放棄は遺産分割協議で相続分をゼロにすること
財産放棄とは、相続人全員で行う遺産分割協議の中で、特定の相続人が財産を受け取らないと合意することです。
実務上は、遺産分割協議書に相続分がないことを反映する方法として使われます。
ただし、相続人としての地位そのものは残るため、被相続人に借金がある場合は注意が必要です。
遺産分割協議書の作成方法は「遺産分割協議書の書き方|不動産の記載例とひな形」でも詳しく紹介しています。
相続放棄は家庭裁判所で相続権の一切を放棄する手続き
相続放棄とは、家庭裁判所に申述することで、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も含めて引き継がない手続きです。
裁判所は、相続放棄をするには家庭裁判所にその旨を申述する必要があると案内しています。
詳しくは裁判所「相続の放棄の申述」をご確認ください。
財産放棄と相続放棄それぞれのメリット・デメリット

財産放棄と相続放棄は、どちらが常に有利というものではありません。
財産状況、借金の有無、他の相続人との関係、期限までの余裕によって選ぶべき手続きが変わります。
| 手続き | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 財産放棄 | 相続人間で柔軟に分け方を決められる | 借金の支払い義務が残るおそれがある |
| 相続放棄 | 借金を含めて相続しない選択ができる | プラスの財産も受け取れず、原則撤回できない |
財産放棄のメリット
財産放棄のメリットは、家庭裁判所を通さず、相続人同士の話し合いで柔軟に調整できる点です。
たとえば、親の介護をしていた相続人に財産を多く取得させたい場合や、家業を引き継ぐ相続人に株式を集中させたい場合に使いやすい方法です。
被相続人に借金がないことが明らかであれば、遺産分割協議の中で柔軟に調整できる点が大きな利点です。
財産放棄のデメリット
財産放棄のデメリットは、財産を受け取らない合意をしても、相続人としての地位までは消えない点です。
被相続人に借金がある場合、債権者から法定相続分に応じた支払いを求められるおそれがあります。
そのため、借金や保証債務の存在が不明な場合は、財産放棄だけで負債を避けられるとは考えないことが重要です。
相続放棄のメリット
相続放棄のメリットは、借金やローンなどのマイナスの財産を含め、相続に関する権利義務を引き継がない選択ができる点です。
被相続人に多額の借金がある場合や、財産調査をしても負債の全体像がつかめない場合には有効な手段になります。
相続人同士のトラブルに関わりたくない場合も、相続関係から離れる選択肢として検討できます。
相続放棄のデメリット
相続放棄のデメリットは、プラスの財産だけを選んで受け取ることができない点です。
一度受理されると原則として撤回できず、不動産や預貯金など価値のある財産も取得できません。
また、同順位の相続人がいない場合は次順位の親族へ相続権が移るため、親族への影響まで確認する必要があります。
あなたはどっち?状況別に最適な手続きを選ぶポイント

財産放棄と相続放棄の判断では、借金の有無を最優先で確認します。
財産を誰かに譲りたいだけなのか、借金を含めて相続関係から離れたいのかで、選ぶ手続きは変わります。
| 状況 | 向いている手続き | 理由 |
|---|---|---|
| 借金がないことが明らか | 財産放棄 | 遺産分割協議で柔軟に調整しやすい |
| 借金が多い、または不明 | 相続放棄 | 負債を引き継がないための法的手続きが必要 |
| 特定の相続人に財産を集中させたい | 財産放棄または相続放棄 | 負債の有無と親族関係への影響で判断 |
| 相続争いに関わりたくない | 相続放棄 | 遺産分割協議に関与しない選択ができる |
財産放棄が向いているケース
財産放棄が向いているのは、被相続人に借金や未払金がないことが明らかで、相続人全員が円満に話し合えるケースです。
「自分は財産を受け取らず、同居していた兄弟に家を取得してもらう」といった調整をしたい場合に使いやすい方法です。
ただし、あとから借金が見つかると問題になりやすいため、財産調査をしてから判断することが欠かせません。
相続放棄が向いているケース
相続放棄が向いているのは、被相続人に多額の借金がある場合や、財産より負債が多い可能性がある場合です。
また、相続人同士の話し合いに関わりたくない、遠方の不動産を管理したくない、保証債務の有無が不明といったケースでも検討対象になります。
ただし、相続放棄は期限があるため、3か月以内に判断材料を集める意識が必要です。
財産放棄と相続放棄の手続きの流れ

財産放棄は遺産分割協議の中で進めるのに対し、相続放棄は家庭裁判所への申述が必要です。
競合記事でも、手続きの流れは「財産調査」「必要書類」「家庭裁判所への提出」を中心に整理されています。
| ステップ | 財産放棄 | 相続放棄 |
|---|---|---|
| 1 | 遺言書の有無を確認する | 相続開始を知った日を確認する |
| 2 | 相続人と相続財産を調査する | 財産と負債を調査する |
| 3 | 相続人全員で遺産分割協議をする | 相続放棄申述書と添付書類を準備する |
| 4 | 遺産分割協議書を作成する | 家庭裁判所へ提出する |
| 5 | 預貯金や不動産の名義変更を進める | 照会書に回答し、受理通知書を受け取る |
財産放棄の手続きの流れ
財産放棄では、まず遺言書の有無、相続人、相続財産を確認します。
そのうえで相続人全員が遺産分割協議を行い、財産を受け取らない相続人がいることを協議書に反映します。
不動産の名義変更や預貯金の解約で使うため、遺産分割協議書は内容が明確にわかる形で作成することが大切です。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄では、相続開始を知った日を確認し、必要書類を集めて相続放棄申述書を作成します。
裁判所は、相続放棄の申述先を「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」と案内しています。
提出後は照会書への回答を経て、問題がなければ相続放棄申述受理通知書が届きます。
相続放棄の必要書類と費用

相続放棄は家庭裁判所の手続きであるため、必要書類と費用を事前に確認しておく必要があります。
裁判所の案内では、申述書、戸籍関係書類、収入印紙、連絡用郵便切手などが必要です。
| 項目 | 主な内容 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 申述書 | 相続放棄申述書 | 裁判所の書式・記載例を確認する |
| 共通書類 | 被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本 | 申述人の立場にかかわらず基本的に必要 |
| 追加書類 | 被相続人の死亡記載のある戸籍、出生から死亡までの戸籍など | 配偶者、子、親、兄弟姉妹など申述人の立場で変わる |
| 費用 | 収入印紙800円分、連絡用郵便切手 | 郵便切手は申述先の家庭裁判所で確認する |
相続放棄で共通して必要になる書類
裁判所は、相続放棄の申述に必要な共通書類として、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本などを案内しています。
また、申述人が配偶者、子、親、兄弟姉妹のどれにあたるかによって、追加で必要になる戸籍が変わります。
戸籍収集は時間がかかることがあるため、3か月の期限から逆算して準備することが重要です。
相続手続き全体で必要な書類は「相続税申告の必要書類一覧」もあわせて確認しておくと安心です。
相続放棄にかかる費用
裁判所の案内では、相続放棄の申述には申述人1人につき収入印紙800円分が必要です。
このほか、連絡用の郵便切手が必要ですが、金額は申述先の家庭裁判所によって異なります。
弁護士や司法書士に依頼する場合は、専門家報酬も含めて総額を確認するようにしましょう。
資料収集や期限管理をまとめて進めたい方へ
相続放棄を検討する場面では、戸籍収集、財産調査、遺産分割協議、相続税申告の要否確認が同時に進むことがあります。
相続アシストでは、相続税申告と周辺手続きに必要な情報整理をまとめて相談できます。
財産放棄・相続放棄を行う前に知っておきたい注意点

財産放棄や相続放棄は、あとから簡単にやり直せる手続きではありません。
特に相続放棄では、3か月期限、財産処分による単純承認、次順位の相続人への影響、全員放棄後の財産管理が重要です。
| 注意点 | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 3か月期限 | 期限を過ぎると相続放棄が難しくなる | 早めに財産調査と書類収集を始める |
| 財産の処分 | 財産を使うと単純承認とみなされるおそれ | 判断前に預金や不動産へ手をつけない |
| 次順位への影響 | 親や兄弟姉妹に相続権が移ることがある | 必要に応じて親族へ説明しておく |
| 全員放棄後の管理 | 現に占有している財産は保存義務が問題になる | 相続財産清算人の選任も検討する |
相続放棄には3か月の期限がある
相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に申述する必要があります。
裁判所も、相続放棄の申述期間について同様に案内しています。
期限内に判断できない事情がある場合は、相続の承認または放棄の期間伸長を検討できる場合があります。
相続財産を一部でも使うと放棄できなくなることがある
相続財産を処分した場合、民法上の法定単純承認にあたり、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
たとえば、故人の預金を引き出して自分のために使う、不動産を売却するなどの行為は注意が必要です。
相続放棄を検討している間は、財産に手をつける前に専門家へ確認すると安全です。
相続放棄をすると次の順位の相続人に権利が移る
相続放棄をした人は、初めから相続人ではなかったものとして扱われます。
そのため、子が全員相続放棄した場合は親などの直系尊属へ、直系尊属がいない場合は兄弟姉妹へ相続権が移ることがあります。
親族トラブルを避けるためにも、次順位の相続人への影響を事前に確認しておきましょう。
代襲相続については「代襲相続とは?孫や甥・姪は相続できる?」も参考になります。
相続人全員が相続放棄した場合でも管理責任が残ることがある
相続人全員が相続放棄をした場合でも、家や土地がすぐに完全に手離れするとは限りません。
民法では、相続放棄をした時に相続財産に属する財産を現に占有している場合、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで自己の財産と同一の注意をもって保存しなければならないとされています。
空き家や遠方の不動産がある場合は、相続財産清算人の選任が必要になるかも確認しましょう。
財産放棄に関するよくある質問

最後に、財産放棄と相続放棄でよくある質問を整理します。
借金がある場合や、書類作成の要否で迷いやすい点を確認しておきましょう。
財産放棄と相続放棄の最も大きな違いは何ですか?
最も大きな違いは、相続人としての地位が残るかどうかです。
財産放棄は遺産分割協議で財産を受け取らない合意をする方法で、相続人としての地位は残ります。
一方、相続放棄は家庭裁判所で手続きを行い、相続人としての権利義務を放棄する方法です。
被相続人に借金がある場合、財産放棄を選んでも大丈夫ですか?
借金がある場合、財産放棄だけでは不十分になるおそれがあります。
遺産分割協議で財産を受け取らないと合意しても、債権者から負債の返済を求められる可能性があるためです。
借金を避けたい場合は、家庭裁判所での相続放棄を検討しましょう。
財産放棄をする場合、特別な書類は必要ですか?
財産放棄そのものに決まった専用書式はありません。
ただし、後のトラブルや金融機関・不動産手続きを考えると、遺産分割協議書に誰がどの財産を取得するかを明確に残すのが一般的です。
相続人全員の合意を証明するため、遺産分割協議書を作成することをおすすめします。
相続放棄をしても生命保険金は受け取れますか?
生命保険金は、受取人固有の財産として扱われる場合があり、相続放棄をしても受け取れることがあります。
ただし、契約内容や受取人の指定、税務上の扱いによって確認事項が変わります。
相続税申告との関係がある場合は、生命保険金と相続放棄を分けて確認することが大切です。
相続放棄がある場合の申告書の考え方は「相続放棄がある場合の相続税申告書の書き方」でも詳しく紹介しています。
財産放棄と相続放棄の判断に不安がある場合は早めに相談する

財産放棄と相続放棄の判断では、法律上の効果だけでなく、借金の有無、相続税申告、遺産分割協議、不動産の管理まで関係することがあります。
特に3か月期限が迫っている場合や、財産調査が終わっていない場合は、自己判断で進めると手戻りが生じやすくなります。
相続アシストでは、相続税申告や周辺手続きに必要な資料収集、財産整理、専門家連携をまとめて相談できます。
相続放棄をするかどうかの判断そのものは法律判断が関わるため、必要に応じて弁護士等とも連携しながら進めることが大切です。
まとめ

財産放棄は、遺産分割協議で財産を受け取らない合意をする方法です。
一方、相続放棄は家庭裁判所で相続人としての権利義務を放棄する手続きであり、借金を含めて相続したくない場合に重要な選択肢になります。
被相続人に借金がある場合は、財産放棄では負債を避けられないおそれがあります。
相続放棄には原則として3か月以内の期限があるため、財産調査や戸籍収集を早めに進めましょう。
判断に迷う場合は、相続手続き全体を見ながら、専門家へ早めに相談することが大切です。
この記事を担当した税理士

税理士法人SWATS
代表 柴田 潤
- 経歴
- 関西大学商学部卒業後、2002年に税理士法人SWATSに入社。資産税・相続税を専門とし、税務と法務の両面から相続をサポート。登録番号:第132969号/近畿税理士会神戸支部所属。
- 一言
- 複雑な相続税申告や手続きは、専門知識と経験が不可欠です。税理士法人SWATSは法律事務所と連携し、安心のワンストップ対応を実現しています。

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