
著者
税理士法人SWATS
代表 柴田 潤
関西大学商学部卒業後、2002年に税理士法人SWATSに入社。資産税・相続税を専門とし、税務と法務の両面から相続をサポート。登録番号:第132969号/近畿税理士会神戸支部所属。
目次
相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈で取得した不要な土地を、一定の条件を満たしたうえで国に引き取ってもらうための制度です。
「遠方の土地を相続したが管理できない」「売却できない山林や農地を持ち続けたくない」「土地だけ手放して預貯金は相続したい」といった場合の選択肢になります。
ただし、どの土地でも無条件に国へ引き取ってもらえるわけではありません。建物がある土地、境界が不明な土地、管理に過大な費用がかかる土地などは、申請しても却下・不承認になる可能性があります。
この記事では、相続土地国庫帰属制度の条件、費用、必要書類、申請手順、相続放棄や売却との違いまで解説します。
・相続や相続人への遺贈で取得した土地が主な対象です
・建物がある土地、担保権がある土地、境界が不明な土地などは対象外になりやすいです
・費用は審査手数料1筆1万4,000円と、原則20万円以上の負担金が中心です
・相続放棄、売却、寄付とは効果が違うため、相続全体の方針とあわせて判断しましょう
相続土地国庫帰属制度とは不要な土地を国に引き取ってもらう制度

相続土地国庫帰属制度とは、相続または相続人への遺贈によって取得した土地について、法務局の審査を受け、承認後に負担金を納付することで、土地の所有権を国庫へ帰属させる制度です。
法務省の相続土地国庫帰属制度の案内でも、所有者不明土地の発生予防を目的とした制度として説明されています。
制度は2023年4月27日に始まりました。施行前に相続した土地でも、要件を満たせば申請できる可能性があります。ポイントは、土地だけを手放す選択肢になり得ることです。
相続放棄と違い、預貯金など他の財産を残せる可能性がある
相続放棄は、土地だけでなく預貯金、有価証券、建物、借金などを含めて、相続人としての立場そのものを放棄する手続きです。
一方、相続土地国庫帰属制度は、相続した財産のうち特定の土地を国へ帰属させる制度です。不要な土地だけを処分したい場合は、相続放棄よりも制度の趣旨に合うことがあります。
国が買い取る制度ではなく、費用を払って引き取ってもらう制度
相続土地国庫帰属制度は、国が土地を買い取ってくれる制度ではありません。
申請者は審査手数料を払い、承認された場合には土地の管理費用に相当する負担金を納付します。売却益を得る制度ではなく、将来の管理負担や固定資産税の負担を整理するための制度と考えましょう。
相続土地国庫帰属制度を申請できる人

相続土地国庫帰属制度を申請できるのは、原則として相続または相続人への遺贈によって土地を取得した人です。
制度の対象は「相続等により取得した土地」なので、購入した土地や生前贈与で取得した土地は、通常この制度の対象にはなりません。
| 区分 | 申請可否の考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続で土地を取得した人 | 申請できる可能性がある | 土地の状態が要件を満たすか確認が必要 |
| 相続人が遺贈で土地を取得した場合 | 申請できる可能性がある | 相続人以外への遺贈とは扱いが異なる |
| 売買・贈与で取得した人 | 原則として申請できない | 相続で取得した土地かどうかが重要 |
| 共有地 | 共有者全員で共同申請が必要 | 1人だけで持分を国庫帰属させることはできない |
共有地は共有者全員の共同申請が必要
土地を兄弟姉妹など複数人で共有している場合、制度を使うには共有者全員で申請する必要があります。
誰か1人が反対している場合や、共有者と連絡が取れない場合は、申請に進みにくくなります。共有地では、制度の要件だけでなく共有者全員の意思確認も重要です。
施行前に相続した土地でも対象になる可能性がある
制度開始前から所有している相続土地でも、相続や相続人への遺贈で取得した土地であれば、申請できる可能性があります。
「昔相続した土地だから使えない」と決めつけず、取得原因が相続なのか、売買や贈与なのかを登記情報や相続資料で確認しましょう。
相続土地国庫帰属制度が使えない土地

相続土地国庫帰属制度では、国が通常より大きな管理負担を負う土地や、権利関係・境界が不安定な土地は引き取ってもらえません。
法務省の案内では、申請時点で却下される土地と、審査の結果として不承認になる土地が整理されています。申請前に、却下事由と不承認事由を分けて確認しましょう。
申請しても却下される土地
次のような土地は、申請段階で却下される可能性があります。
| 却下されやすい土地 | 確認ポイント |
|---|---|
| 建物がある土地 | 空き家、倉庫、物置などが残っていないか |
| 担保権や使用収益権が設定されている土地 | 抵当権、地上権、賃借権などがないか |
| 他人の利用が予定されている土地 | 通路、墓地、水路などとして使われていないか |
| 土壌汚染がある土地 | 有害物質による汚染のおそれがないか |
| 境界が不明な土地・争いがある土地 | 隣地との境界や所有権の範囲に争いがないか |
審査で不承認になる土地
申請自体は受け付けられても、審査の結果として不承認になる土地もあります。
たとえば、一定の崖がある土地、管理や処分のために除去すべき工作物・樹木・車両などがある土地、地下に除去が必要な物がある土地、隣地との争いが生じるおそれがある土地などです。
山林や原野では、現地確認をしないまま申請準備を進めると、後から管理に過大な費用がかかる土地と判断されることがあります。
建物や権利関係を整理すれば申請できる場合もある
建物が残っている土地はそのままでは対象外になりやすいですが、建物を解体し、滅失登記や権利関係の整理をしたうえで申請を検討できる場合があります。
ただし、解体費用、測量費用、境界確認費用がかかることもあります。制度の利用だけを見て判断せず、申請条件を満たすための費用も含めて比較しましょう。
相続土地国庫帰属制度にかかる費用

相続土地国庫帰属制度の主な費用は、申請時に必要な審査手数料と、承認後に納付する負担金です。
費用は土地の種類や面積によって変わるため、法務省の負担金の案内も確認しましょう。
| 費用 | 目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| 審査手数料 | 土地1筆につき1万4,000円 | 不承認や取下げの場合でも返還されません |
| 負担金 | 宅地・田畑・雑種地などは原則20万円 | 市街地の宅地、農用地区域の農地、森林などは面積に応じて変わります |
| 周辺費用 | 個別事情による | 建物解体、測量、境界確認、専門家報酬などが発生する場合があります |
審査手数料は土地1筆ごとに1万4,000円
審査手数料は、土地1筆ごとに1万4,000円です。
複数の土地を申請する場合は、その筆数分の手数料が必要になります。申請が却下・不承認になった場合や、途中で取り下げた場合でも原則として返還されないため、事前相談で見込みを確認してから申請することが大切です。
負担金は原則20万円だが土地の種類で変わる
負担金は、国が土地を引き取った後の標準的な管理費用に相当するものです。
宅地、田畑、雑種地、原野などは原則20万円ですが、市街地の宅地や農用地区域の農地、森林などは面積に応じて算定されます。
森林や広い土地では負担金が大きくなる可能性があるため、売却や寄付より本当に有利かを比較しましょう。
土地の状態を整えるための費用も見落とさない
制度の対象にするために、建物の解体、残置物の撤去、境界確定、測量、相続登記などが必要になることがあります。
このような費用を含めると、単に負担金20万円だけでは済まない場合があります。申請前に、制度利用にかかる総額を整理しましょう。
申請可否と相続登記をまとめて整理したい方へ
相続土地国庫帰属制度を検討する場面では、土地の取得原因、共有者、登記名義、固定資産税評価証明書、現地写真などの確認が必要です。
相続アシストでは、相続手続き全体の流れを確認しながら、土地を残すか、売却するか、国庫帰属を検討するかを整理できます。
相続土地国庫帰属制度の必要書類と申請手順

相続土地国庫帰属制度は、土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局に申請します。
いきなり申請するより、まず法務局の事前相談を利用し、土地の状況や必要書類を確認してから進めるのが現実的です。
| 手順 | 内容 | 確認すること |
|---|---|---|
| 1. 法務局へ相談 | 相談票、チェックシート、土地資料を用意する | 制度の対象になりそうか |
| 2. 申請書類を準備 | 承認申請書、図面、写真、印鑑証明書などを整える | 境界や土地形状を説明できるか |
| 3. 申請・審査手数料納付 | 管轄法務局へ提出する | 収入印紙の貼付漏れがないか |
| 4. 書類審査・実地調査 | 法務局が要件を審査する | 追加説明や資料提出に対応できるか |
| 5. 負担金を納付 | 承認通知後、期限内に納付する | 通知到達後30日以内に納付する |
事前相談では土地資料と写真を用意する
法務局へ相談する際は、相談票、チェックシート、登記事項証明書、地図、地積測量図、土地の現況写真などを用意すると話が進みやすくなります。
遠方の土地では写真や現地案内図が重要です。現地状況が不明なままでは、制度を使えるかどうかの判断が難しくなります。
必要書類は承認申請書・図面・写真・印鑑証明書など
主な必要書類には、承認申請書、土地の位置や範囲を示す図面、隣接地との境界を示す写真、土地の形状を示す写真、申請者の印鑑証明書などがあります。
状況によっては、固定資産税評価証明書、境界に関する資料、現地案内図などを用意することもあります。書類不備は手続き遅延の原因になるため、事前相談で確認しましょう。
負担金は承認通知が届いてから30日以内に納付する
審査で承認されると、負担金の納付通知が届きます。通知到達後30日以内に負担金を納付すると、土地の所有権が国庫へ帰属します。
期限内に納付しないと承認が効力を失う可能性があるため、承認後すぐに納付できる資金を準備しておきましょう。
相続土地国庫帰属制度のメリット・デメリット

相続土地国庫帰属制度は、不要な土地を持ち続ける負担を軽くできる一方で、要件や費用のハードルがあります。
制度だけを見て判断するのではなく、相続放棄、売却、寄付、管理継続と比較することが大切です。
メリット:土地の管理負担や固定資産税の負担を手放せる
遠方の土地、利用予定のない農地・山林、買い手が見つかりにくい土地を所有していると、草刈り、現地確認、固定資産税、近隣対応などの負担が続きます。
制度を使って国庫帰属が完了すれば、将来の管理負担と所有者責任から離れられる点が大きなメリットです。
メリット:相続放棄と違い他の財産を相続できる可能性がある
相続放棄をすると、不要な土地だけでなく、預貯金や有価証券なども相続できなくなります。
相続土地国庫帰属制度であれば、条件を満たす土地だけを国へ帰属させるため、他の財産を相続したい人にとって選択肢になります。
デメリット:対象外の土地が多く費用もかかる
建物がある土地、境界が不明な土地、管理が難しい土地などは、制度を利用できない可能性があります。
さらに、審査手数料や負担金だけでなく、建物撤去や測量などの周辺費用がかかることもあります。制度を使う前に、使える土地かどうかと費用対効果を確認しましょう。
相続放棄・売却・寄付との違い

不要な土地を手放す方法は、相続土地国庫帰属制度だけではありません。相続放棄、売却、寄付、無償譲渡なども候補になります。
それぞれ効果と条件が違うため、自分が何を優先したいかで選びましょう。
| 方法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続土地国庫帰属制度 | 他の財産は相続しつつ、特定の土地だけ手放したい | 要件、審査、費用がある |
| 相続放棄 | 借金が多い、相続全体を受けたくない | 土地だけを選んで放棄することはできない |
| 売却 | 買い手が見込める土地 | 価格がつかない、測量や解体が必要な場合がある |
| 寄付・無償譲渡 | 自治体、隣地所有者、法人などが受け取る意思を示している | 受け手が見つからないことが多い |
借金が多い場合は相続放棄も検討する
相続財産に借金が多い場合は、不要な土地だけでなく相続全体を受けない方がよいことがあります。
相続放棄には、原則として相続の開始を知った日から3か月以内という期限があります。国庫帰属制度を調べているうちに期限を過ぎないよう、相続放棄の期限も同時に確認しましょう。
売却できる土地なら先に売却可能性を確認する
買い手が見つかる土地であれば、国庫帰属制度より売却の方が費用負担を抑えられることがあります。
ただし、地方の山林、接道が悪い土地、境界が不明な土地、建物解体が必要な土地は売却が難しい場合もあります。複数の方法を比較して判断しましょう。
相続土地国庫帰属制度に関するよくある質問

Q. 相続土地国庫帰属制度は自分で申請できますか?
自分で申請することも可能です。
ただし、承認申請書、図面、境界写真、土地形状の写真などを用意し、土地の状況を説明する必要があります。境界、共有、相続登記、建物解体などが関係する場合は、専門家へ相談した方がスムーズです。
Q. 農地や山林でも相続土地国庫帰属制度は使えますか?
農地や山林も、要件を満たせば対象になる可能性があります。
ただし、農用地区域の農地や森林は負担金の計算が異なる場合があります。また、山林では境界が不明確だったり、管理に過大な費用がかかると判断されたりすることがあるため、現地状況の確認が重要です。
Q. 建物がある土地は国に引き取ってもらえますか?
建物がある土地は、そのままでは却下事由に該当する可能性が高いです。
申請を検討する場合は、建物の解体、滅失登記、残置物の撤去などが必要になることがあります。解体費用を含めても制度を利用する価値があるかを確認しましょう。
Q. 共有者の1人だけで申請できますか?
共有地は、共有者全員で共同申請する必要があります。
兄弟姉妹で共有している土地を1人だけ手放すことはできません。共有者の同意が取れない場合は、売却、共有持分の整理、遺産分割の見直しなど別の方法も検討します。
Q. 相続登記をしていなくても申請できますか?
申請にあたっては、誰が土地の所有者かを明確にする必要があります。相続登記が未了の場合は、先に相続関係や登記名義を整理する必要が出ることがあります。
2024年4月1日から相続登記は義務化されているため、国庫帰属制度を検討する場合も、登記の状況を早めに確認しましょう。
土地の相続手続きに不安がある場合は早めに相談する

相続土地国庫帰属制度は、不要な土地を手放せる可能性がある一方で、申請できる人、土地の状態、費用、必要書類、共有者の同意など確認事項が多い制度です。
特に、建物が残っている、境界がはっきりしない、相続登記が終わっていない、共有者が複数いるといった場合は、制度の利用可否だけでなく相続全体の整理が必要です。
相続税申告や相続手続き、土地の扱いをまとめて相談したい場合は、相続アシストもあわせてご確認ください。
まとめ

相続土地国庫帰属制度は、相続や相続人への遺贈で取得した不要な土地を、一定の条件のもとで国に引き取ってもらう制度です。
土地だけを手放せる可能性があるため、預貯金など他の財産は相続したい人にとって有力な選択肢になります。
一方で、建物がある土地、担保権がある土地、境界が不明な土地、管理に過大な費用がかかる土地などは対象外になりやすく、審査手数料や負担金も必要です。
不要な土地を相続した場合は、国庫帰属制度・相続放棄・売却・寄付を比較し、土地の状態と相続全体の方針を早めに整理しましょう。
この記事を担当した税理士

税理士法人SWATS
代表 柴田 潤
- 経歴
- 関西大学商学部卒業後、2002年に税理士法人SWATSに入社。資産税・相続税を専門とし、税務と法務の両面から相続をサポート。登録番号:第132969号/近畿税理士会神戸支部所属。
- 一言
- 複雑な相続税申告や手続きは、専門知識と経験が不可欠です。税理士法人SWATSは法律事務所と連携し、安心のワンストップ対応を実現しています。

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