

著者
税理士法人SWATS
代表 柴田 潤
関西大学商学部卒業後、2002年に税理士法人SWATSに入社。資産税・相続税を専門とし、税務と法務の両面から相続をサポート。登録番号:第132969号/近畿税理士会神戸支部所属。
目次
遺贈と相続は、どちらも亡くなった人の財産を引き継ぐ方法ですが、財産を渡せる相手や手続き、税金の扱いが大きく異なります。
相続は法律で定められた相続人に財産が引き継がれる仕組みで、遺贈は遺言によって相続人以外にも財産を渡せる仕組みです。
この記事では、遺贈と相続の違いを、受け取る人・登記手続き・税金・遺言書の文言の順にわかりやすく解説します。
・相続で財産を受け取れるのは、原則として法定相続人です
・遺贈は、遺言書によって相続人以外の人や法人にも財産を渡せます
・不動産を渡す場合は、登録免許税や登記申請の方法に違いがあります
・相続人以外が遺贈で財産を受け取ると、相続税が2割加算される場合があります
遺贈と相続の基本的な違いは「財産を渡せる相手」

遺贈と相続の最も大きな違いは、財産を渡せる相手の範囲です。
相続は法律で定められた相続人に財産が引き継がれる制度ですが、遺贈は遺言によって法定相続人以外の人にも財産を渡せます。
そのため、お世話になった人、内縁の配偶者、特定の団体などへ財産を残したい場合は、相続だけでなく遺贈の仕組みを検討する必要があります。
相続:財産を渡せるのは法律で定められた「法定相続人」のみ
相続とは、亡くなった人の財産が、民法で定められた相続人に引き継がれる制度です。
法定相続人になれるのは、配偶者、子、親、兄弟姉妹など法律で決められた親族に限られます。
遺言書がない場合は、法定相続人全員による遺産分割協議で財産の分け方を決めるのが一般的です。
遺贈:遺言によって法定相続人以外にも財産を渡せる
遺贈とは、遺言によって財産を無償で譲り渡す行為です。
e-Gov法令検索の民法第964条では、遺言者は包括または特定の名義で財産の全部または一部を処分できるとされています。
つまり遺贈を使えば、法定相続人以外の人や法人、団体にも財産を渡すことができます。
例えば、内縁の配偶者、お世話になった友人、NPO法人への寄付なども、遺言書を通じて実現できます。
なお、遺贈と似た制度に死因贈与がありますが、死因贈与は生前に契約を結び、死亡を条件として財産を渡す制度であり、遺言による遺贈とは成立の仕組みが異なります。
【比較表】遺贈と相続の違いが一目でわかる一覧

上位記事では、遺贈と相続の違いを「財産を受け取る人」「課税される税金」「登記手続き」「遺言書の書き方」に分けて整理しています。
実務でも、単に「誰に渡すか」だけでなく、不動産登記や税負担まで含めて比較することが重要です。
| 比較項目 | 相続 | 遺贈 | 実務上の判断ポイント |
|---|---|---|---|
| 財産を受け取る人 | 法定相続人 | 相続人、相続人以外の個人、法人、団体 | 内縁の配偶者や友人に渡すなら、遺言書で遺贈を指定します。 |
| 遺言書の必要性 | 遺言書がなくても発生する | 遺言書による意思表示が必要 | 遺贈では、受遺者と財産を特定できる文言にします。 |
| 登録免許税 | 相続登記は原則0.4% | 相続人への遺贈は0.4%の扱いがあり、相続人以外への遺贈は原則2.0% | 不動産を渡す場合は、誰に渡すかで登記費用が変わります。 |
| 不動産取得税 | 相続による取得は原則非課税 | 相続人以外への特定遺贈では課税対象になることがある | 土地や建物を遺贈する場合は、事前に税負担を確認します。 |
| 相続税の2割加算 | 配偶者や一親等の血族は原則対象外 | 相続人以外や兄弟姉妹などは対象になる場合がある | 国税庁の2割加算ルールに照らして確認します。 |
| 債務の扱い | プラス財産とマイナス財産を承継する | 包括遺贈では債務も引き継ぐ可能性がある | 借金がある場合は、包括遺贈か特定遺贈かを慎重に選びます。 |
| 登記申請の進め方 | 相続人が相続登記を申請する | 相続人への遺贈は単独申請が可能。相続人以外への遺贈は遺言執行者の指定が重要 | 相続人の協力が得にくい場合は、遺言執行者を置くと進めやすくなります。 |
一次情報として、登録免許税は国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」、相続税の2割加算は国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」、相続人への遺贈登記は法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ」も確認しておくと安心です。
遺贈には2つの種類がある|包括遺贈と特定遺贈

遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2種類があります。
包括遺贈は財産全体に対する割合を指定する方法で、特定遺贈は「この不動産」「この預金」のように個別の財産を指定する方法です。
どちらを選ぶかによって、債務の扱いや放棄の考え方が変わります。
| 項目 | 包括遺贈 | 特定遺贈 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 指定方法 | 「遺産の3分の1」など割合で指定 | 「自宅の土地建物」など財産を個別指定 | 財産をどこまで渡したいかで選びます。 |
| 債務の扱い | 借金などのマイナス財産も承継する可能性がある | 原則として指定された財産のみを取得 | 借入金がある場合は包括遺贈を安易に使わないよう注意します。 |
| 受遺者の立場 | 民法上、相続人と同一の権利義務を持つとされています | 指定財産を受け取る立場 | 民法第990条の包括受遺者の扱いも確認します。 |
| 向いているケース | 財産全体を割合で分けたい場合 | 特定の土地、預金、株式などを渡したい場合 | 不動産だけを渡したい場合は特定遺贈が使いやすいです。 |
包括遺贈:財産の割合を指定して渡す方法
包括遺贈とは、「遺産の3分の1をAに遺贈する」というように、財産全体に対する割合を指定して譲り渡す方法です。
包括遺贈を受けた人は、相続人とほぼ同じ権利義務を負うため、預貯金や不動産などのプラス財産だけでなく、借金などのマイナス財産も割合に応じて引き継ぐ可能性があります。
特定遺贈:「この土地」など特定の財産を指定して渡す方法
特定遺贈とは、「自宅の土地と建物をBに遺贈する」「C銀行の預金をDに遺贈する」といったように、特定の財産を指定して譲り渡す方法です。
包括遺贈と異なり、原則として受遺者は指定された財産を取得する立場になるため、渡したい財産が明確な場合に使いやすい方法です。
【手続き・税金】遺贈と相続のメリット・デメリットを比較

遺贈と相続は、手続きの手間や税金の負担にも違いがあります。
特に不動産を渡す場合は、登録免許税・不動産取得税・登記申請の方法を事前に確認しておく必要があります。
財産を渡す側も受け取る側も、後のトラブルを防ぐために、メリットだけでなくデメリットも把握しておきましょう。
遺贈のメリット:お世話になった人など相続人以外にも財産を渡せる
遺贈の最大のメリットは、財産を渡す相手を自由に決められる点です。
法定相続人という枠組みにとらわれず、内縁の配偶者、事実婚のパートナー、介護でお世話になった人などに、感謝の気持ちを財産として残すことができます。
公益法人やNPO法人などへの寄付も可能なため、社会貢献への思いを実現する手段にもなります。
遺贈のデメリット①:不動産取得税や登録免許税の負担が重くなる場合がある
税金面では、遺贈が相続より不利になる場合があります。
国税庁の登録免許税の税額表では、土地の所有権移転登記について、相続は原則0.4%、その他の移転は原則2.0%とされています。
相続人に対する遺贈は相続登記に近い扱いを受ける場面がありますが、相続人以外への遺贈では登録免許税が高くなる可能性があります。
また、不動産取得税についても、相続による取得は原則非課税である一方、相続人以外への特定遺贈では課税対象になることがあります。
遺贈のデメリット②:相続人以外が受け取ると相続税が2割加算される場合がある
相続税でも注意が必要です。
国税庁によると、相続や遺贈によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族および配偶者以外である場合、その人の相続税額に2割に相当する金額が加算されます。
兄弟姉妹、甥姪、代襲相続人ではない孫、友人などへ遺贈する場合は、相続税の負担が増える可能性を見込んでおく必要があります。
遺贈のデメリット③:不動産登記は遺言執行者の指定が重要になる
不動産を遺贈する場合は、登記手続きも確認しておきましょう。
法務局によると、令和5年4月1日から、遺贈により不動産を取得した相続人は単独で所有権移転登記を申請できるようになりました。
一方、相続人以外への遺贈では、相続人の協力が必要になる場面があるため、遺言執行者を指定しておくことが実務上重要です。
遺言書の文言や相続税への影響をまとめて確認したい方へ
遺贈は自由度が高い一方で、税金、登記、遺留分、遺言執行者の指定などを一体で確認する必要があります。
相続アシストでは、遺言書の作成前に必要な整理や、相続税・不動産手続きへの影響をまとめて相談できます。
遺言書作成時の注意点|「相続させる」「遺贈する」の正しい使い分け

遺言書を作成する際には、誰に財産を渡すかに応じて「相続させる」と「遺贈する」を使い分けます。
この文言の違いは、相続発生後の登記手続きや解釈に影響するため、受け取る人が相続人かどうかを確認してから書くことが大切です。
遺言書が無効になる場合については「遺言書が無効になるケースと対処法」で詳しく紹介しています。
法定相続人には「相続させる」と書くのが手続きを簡略化するコツ
法定相続人に財産を渡したい場合は、遺言書に「相続させる」と記載するのが一般的です。
この文言を使うことで、特定の財産を承継させる遺言と解釈され、相続人が登記申請を進めやすくなる場合があります。
他の相続人の協力を得る手間を減らしたい場合は、財産の表示や相続人の氏名を正確に記載しましょう。
法定相続人以外には「遺贈する」と明記する
友人、お世話になった人、内縁の配偶者、NPO法人など、法定相続人以外に財産を渡したい場合は「遺贈する」と明確に記載します。
「相続させる」という文言は法定相続人に対して使う言葉であるため、相続人以外に使うと、遺言内容の解釈で問題が生じるおそれがあります。
遺言執行者を指定して手続きの負担を軽減する
遺言の内容をスムーズに実現するためには、遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
遺言執行者とは、遺言の内容に従って預金の解約や不動産の名義変更などを行う権限を持つ人です。
相続人同士の関係が複雑な場合や、受遺者が相続人と面識がない場合は、遺言執行者の有無が手続きの進みやすさに影響します。
遺言執行者については「遺言執行者の兼任の権限や報酬、選任方法」で詳しく紹介しています。
全員の遺留分を侵害しない内容にする
遺言書を作成する際は、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障されている最低限の取り分である遺留分に配慮します。
遺留分を侵害する遺言が直ちに無効になるわけではありませんが、相続開始後に遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
特定の人へ多くの財産を遺贈したい場合ほど、遺留分トラブルを避ける設計が重要です。
遺贈と相続の違いに関するよくある質問

遺贈と相続の違いを考える際は、税金面でどちらが有利か、遺言書の文言をどう書くべきか、借金も引き継ぐのかといった疑問が出やすいです。
ここでは、実務で特に確認されやすい質問を整理します。
「遺贈」と「相続」では、どちらが税金面で有利ですか?
法定相続人が財産を取得する場合は、一般的に相続の方が税金面で有利になりやすいです。
相続では登録免許税が低く、不動産取得税も原則かからないためです。
一方、相続人以外への遺贈では、相続税の2割加算や不動産関係の税負担が生じる場合があります。
ただし、特定の人へ確実に財産を渡したいという意思を優先する場合は、遺贈を選ぶ意義があります。
相続と贈与の違いについては「相続と贈与の違いを比較」で詳しく紹介しています。
相続人に対して「遺贈する」と遺言書に書いた場合、どうなりますか?
相続人に対して「遺贈する」と記載しても、それだけで遺言書が無効になるわけではありません。
ただし、財産を渡す相手が法定相続人である場合は、実務上は「相続させる」と記載した方が整理しやすいケースがあります。
令和5年4月1日以降は、相続人が遺贈により不動産を取得した場合も単独で所有権移転登記を申請できるようになりましたが、文言の使い分けは今でも重要です。
借金などのマイナスの財産も遺贈の対象になりますか?
遺贈の種類によっては対象になります。
財産の割合を指定する包括遺贈の場合、プラスの財産だけでなく借金などの債務もその割合に応じて引き継ぐ可能性があります。
一方、特定の不動産や預金などを指定する特定遺贈では、原則として指定された財産のみを取得する形になります。
遺贈や相続のことでお悩みなら「生前対策診断サポート」

遺贈と相続のどちらを選択すべきか、どのような遺言書を作成すべきかは、財産状況、家族関係、将来の希望によって異なります。
税務と法務の両面から検討が必要になるため、一人で判断するのは簡単ではありません。
「生前対策診断サポート」では、現状を整理し、相続税の簡易試算や将来起こりうるリスクを明確にした上で、ご家庭に合った対策の方向性をご提案します。
生前対策の診断については「生前対策診断」で詳しく紹介しています。
生前対策で専門家のサポートが選ばれる3つの理由
生前対策は、法律や税金の知識が複雑に絡み合うため、専門家のサポートを活用するメリットが大きいです。
専門家が選ばれる主な理由として、次の3点が挙げられます。
税務と法務の両面から最適なプランを一体で判断できる
生前対策では、相続税などの税務と、遺言の有効性や民法のルールなどの法務をあわせて考える必要があります。
税理士や司法書士などの専門家に相談すれば、節税効果と法的な有効性を両立させた、抜け漏れの少ないプランを設計しやすくなります。
遺言や家族信託など特定の制度に偏らない中立な提案
生前対策の方法には、遺言、家族信託、任意後見、生前贈与など、さまざまな制度があります。
専門家はこれらの制度を横断的に比較し、相談者の状況や希望に合う方法を中立的に検討できます。
家族信託については「家族信託の仕組みやメリット・デメリット、費用」で詳しく紹介しています。
相続発生後の手続きまで見据えた長期的な設計
生前対策の目的は、単に遺言書を作成することではありません。
実際に相続が発生した際に手続きが円滑に進み、家族が困らないようにすることが大切です。
専門家は、将来の相続登記や相続税申告まで見据え、相続発生後の負担を減らす設計を検討できます。
遺贈・相続・相続税の判断に不安がある場合は早めに相談する

遺贈は、法定相続人以外にも財産を渡せる便利な方法ですが、税金や登記、遺留分まで含めて設計しないと、相続発生後に思わぬ負担やトラブルが生じることがあります。
特に、不動産を遺贈したい、相続人以外へ財産を残したい、相続税の負担が不安という場合は、遺言書を作成する前に専門家へ相談しておくと安心です。
相続税申告や周辺手続きをまとめて相談したい場合は、相続アシストもあわせてご確認ください。
まとめ

遺贈と相続の根本的な違いは、財産を渡せる相手が法律で決まっているか、遺言で自由に決められるかという点です。
相続は法定相続人が対象ですが、遺贈は遺言によって相続人以外にも財産を渡せます。
ただし、遺贈には税金や登記手続きの面で注意点があります。
遺言書を作成する際は、「相続させる」「遺贈する」の文言を正しく使い分け、財産を受け取る人・税負担・遺留分・遺言執行者まで整理しておきましょう。
この記事を担当した税理士

税理士法人SWATS
代表 柴田 潤
- 経歴
- 関西大学商学部卒業後、2002年に税理士法人SWATSに入社。資産税・相続税を専門とし、税務と法務の両面から相続をサポート。登録番号:第132969号/近畿税理士会神戸支部所属。
- 一言
- 複雑な相続税申告や手続きは、専門知識と経験が不可欠です。税理士法人SWATSは法律事務所と連携し、安心のワンストップ対応を実現しています。

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