
著者
税理士法人SWATS
代表 柴田 潤
関西大学商学部卒業後、2002年に税理士法人SWATSに入社。資産税・相続税を専門とし、税務と法務の両面から相続をサポート。登録番号:第132969号/近畿税理士会神戸支部所属。
親のもの忘れが増え、「相続対策を始めた方がよいのでは」と感じても、遺言、家族信託、任意後見のどれから考えるべきか迷う方は少なくありません。
このとき大切なのは、制度名を先に決めることではなく、本人の意思を確認できる状態か、財産と家族の状況はどうなっているかを順番に整理することです。
・最初に本人の希望を聞き取り、判断を急ぎすぎない
・預貯金、不動産、保険、借入れを一度一覧にする
・実家を誰が使うか、売却する可能性があるかを家族で共有する
・遺言、任意後見、家族信託は目的が異なるため、整理後に比較する
目次
親に認知症の兆候があるとき、相続対策で先に整理したいこと

認知症に備えた相続対策は、節税だけの話ではありません。本人の生活を支える財産管理、実家の維持・売却、将来の遺産分割を、本人の希望を尊重しながら考える準備です。
裁判所は、成年後見制度を、認知症などにより判断する能力が十分でない人を法律的に支援する制度として案内しています。すでに判断能力の低下が進んでいる場合に備える制度もありますが、いま本人が何を理解し、どのような希望を持っているかを確認することが、対策の出発点になります。
子どもが親の財産を自由に動かせるわけではない
親名義の預貯金や不動産は、子どもであっても当然に管理・処分できるものではありません。介護費用の準備や実家の売却が必要になる可能性がある場合ほど、名義、利用目的、必要な時期を早めに整理しておくことが重要です。
ただし、認知症の診断名だけで全ての契約ができなくなるわけではなく、扱いは本人の判断能力や手続きの内容で変わります。家族だけで「もう何もできない」と決めつけず、必要な手続きごとに確認しましょう。
何から始める?親の認知症に備える相続対策の5ステップ

1. 本人が大切にしたいことを聞く
最初に確認したいのは、「誰に何を残したいか」だけではありません。今後も自宅で暮らしたいのか、介護サービスや施設の希望はあるか、財産管理を誰に頼みたいかを、本人の言葉で聞き取ります。
この段階で家族が結論を押し付けると、後の手続きや遺産分割で認識がずれるおそれがあります。会話の内容はメモに残し、本人の希望と家族の希望を分けて整理すると話し合いやすくなります。
2. 財産と名義を一覧にする
次に、預貯金、不動産、生命保険、有価証券、借入れ、毎月の支出を洗い出します。通帳や証券、保険証券、固定資産税の納税通知書など、手がかりとなる資料の保管場所も確認しましょう。
ここでは「相続税がかかるか」だけを急いで判定しません。まず全体像を把握することで、生活費や介護費用に使う資金、将来分け方を考える財産、相続税の見込みを順に確認できます。
3. 実家不動産をどうする可能性があるか考える
実家がある場合は、誰が住み続けるのか、空き家になる可能性はあるか、将来売却する可能性があるかを家族で共有します。不動産は、預貯金のように均等に分けにくく、住む人と相続する人が異なると調整が必要になりやすい財産です。
売却を検討する場合も、所有者、本人の生活状況、売却代金の使い道を一緒に整理します。実家だけを切り離して考えず、本人の生活と相続後の分け方を合わせて検討することが大切です。
4. 家族内の役割と話し合う事項を決める
財産を管理する人、医療・介護の連絡を担う人、実家のことを確認する人を、一人に集中させずに整理します。きょうだいがいる場合は、資料を共有する方法や、重要な判断を誰とどのように話し合うかも決めておくと安心です。
家族会議では、相続分をすぐに決めるよりも、本人の希望、財産の全体像、実家、介護費用、連絡先を確認する順に進めると、話題が整理しやすくなります。
5. 目的に合う制度を比較する
上の4点が整理できてから、遺言、任意後見、家族信託、生前贈与などを比較します。例えば、遺言は主に亡くなった後の財産の分け方を示すための手段です。任意後見は、将来判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめ選んだ人に生活・療養看護や財産管理に関する事務を任せる契約です。
法務省は、任意後見契約は公正証書によらなければならないと案内しています。また、裁判所によれば、任意後見契約は任意後見監督人が選任されることで効力が生じます。制度にはそれぞれ役割と手続きがあるため、「認知症対策なら家族信託」と一つに決めず、目的に照らして検討しましょう。
遺言・任意後見・家族信託は何が違う?

| 手段 | 主に考える場面 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 遺言 | 亡くなった後の財産の分け方を示したい | 財産の内容、相続人、遺留分など |
| 任意後見 | 判断能力が低下した後の生活・財産管理に備えたい | 任せる人、任せる事務、公正証書の作成 |
| 家族信託 | 特定の財産を家族に託して管理の方針を定めたい | 対象財産、受託者、契約内容、他制度との役割分担 |
遺言は「相続後の分け方」を示すための準備
遺言書の作成方法・保管方法には選択肢があります。法務省の自筆証書遺言書保管制度では、法務局で遺言書を保管できます。ただし、保管制度は遺言の内容の有効性まで保証するものではありません。内容や作成時の状況を含め、個別に確認が必要です。
任意後見は「判断能力が低下した後」の備え
任意後見は、本人があらかじめ選んだ人に、将来の生活・療養看護や財産管理に関する事務を任せる契約です。本人の判断能力が十分でない場合に備える仕組みであり、契約は公正証書で作成します。開始時の手続きや監督人の選任については、裁判所の案内も確認してください。
家族信託は「誰がどの財産を管理するか」を設計する手段の一つ
家族信託は、信頼できる家族に特定の財産の管理を託すための契約設計です。不動産や預貯金をどう管理するかという目的に合うことがありますが、生活・療養看護に関する代理を直接担う制度ではありません。任意後見や遺言と組み合わせるかどうかを含め、財産の種類と家族の役割から検討します。
制度比較と資料整理を一緒に進めたい方へ
「制度の名前は聞いたことがあるが、親の財産や実家の状況に合うか分からない」という場合は、先に資料と希望を整理することが近道です。生前対策では、相続税、遺言、家族信託などを含め、状況に応じた準備を相談できます。
すでに判断能力の低下が心配な場合はどうする?

すでに本人の判断能力に不安があるときは、新しい契約や遺言が可能かを家族だけで判断しないことが重要です。裁判所は、成年後見制度について、本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の類型があると案内しています。
まずは、本人の生活・医療・介護に必要なこと、財産の管理状況、緊急に必要な支払い、家族間で共有できている情報を整理します。そのうえで、医療・介護の相談先と、法務・税務の専門家に確認する論点を分けると、次の行動が見えやすくなります。
親の認知症と相続対策に関するよくある質問

Q. 親が認知症と診断されたら、遺言や相続対策は一切できませんか?
診断名だけで一律に判断することはできません。手続きごとに本人の意思を確認できるか、どのような内容かを個別に見ます。判断能力の低下が心配な場合は、急いで結論を出す前に、本人の状況と必要な手続きを専門家へ確認しましょう。
Q. 家族信託をすれば、任意後見は不要ですか?
一概にはいえません。家族信託は主に信託した財産の管理に関する仕組みであり、本人の生活・療養看護に関する代理を直接行う制度ではありません。どの財産を誰が管理するか、生活面の支援を誰が担うかを分けて考える必要があります。
Q. 実家は、今すぐ子ども名義に変えた方がよいですか?
名義変更だけを先に決めるのは避けましょう。親が住み続ける予定、介護費用、他の相続人との公平、税金、将来の売却可能性によって判断が変わります。まず所有状況と家族の希望を整理してから検討します。
Q. 家族会議では何を話せばよいですか?
本人の希望、財産・資料の保管場所、実家の扱い、介護・連絡の役割分担を確認します。最初から分け方を決めるより、事実と希望を共有することから始めると、話し合いが進めやすくなります。
親の認知症に備える相続対策で判断に迷った実例

親の認知症への備えでは、制度の条件だけでなく、本人の希望、実家不動産、家族の役割によって、先に確認すべきことが変わります。ここでは、SWATSに寄せられた相談内容をもとに、個人を特定できない形に一般化した実例を紹介します。
任意後見・遺言・家族信託のどれから検討すべきか迷ったケース
親に認知症の兆候があり、判断能力が低下する前に備えを始めたい一方で、実家不動産の将来の分け方も決まっていないという相談がありました。家族は任意後見、遺言、家族信託という言葉を知っていたものの、どれか一つを選ぶべきかを決められない状態でした。
最初に本人の意思、財産、実家の方針を整理した
このような場合は、まず本人がどのように暮らしたいか、誰に何を任せたいかを確認します。次に、預貯金・不動産・保険などを棚卸しし、実家を住み継ぐのか、売却の可能性があるのかを家族で共有します。
任意後見の契約や成年後見制度の利用には、公的な手続きと個別の確認事項があります。制度の概要は裁判所の成年後見制度の案内を確認したうえで、家族の状況に合う選択肢を検討します。
同じ状況で確認したいポイント
- 本人の希望を、本人の言葉で確認できる状態か
- 預貯金、不動産、保険、借入れの資料がどこにあるか
- 実家を誰が利用する可能性があるか、将来売却する可能性があるか
- 家族内で連絡・介護・財産確認を担う人をどう分けるか
- 相続税の見込みや遺言・信託・後見で確認すべき論点は何か
親の認知症に備えて生前対策を整理したい方へ

親の認知症に備える際は、制度を一つだけ選ぶ前に、本人の希望、財産の名義、実家不動産、家族の役割、相続税の見込みを整理することが大切です。生前対策では、相続税・遺言・家族信託などを含め、状況に応じた準備を相談できます。
まとめ

親の認知症に備える相続対策は、遺言や家族信託を急いで選ぶことから始めるのではなく、本人の希望、財産の全体像、実家、家族の役割を整理することが第一歩です。
判断能力や財産の内容によって選択肢は変わります。公的な案内を確認しながら、必要に応じて税務・法務の専門家に相談し、本人と家族に合った準備を進めましょう。
この記事を担当した税理士

税理士法人SWATS
代表 柴田 潤
- 経歴
- 関西大学商学部卒業後、2002年に税理士法人SWATSに入社。資産税・相続税を専門とし、税務と法務の両面から相続をサポート。登録番号:第132969号/近畿税理士会神戸支部所属。
- 一言
- 複雑な相続税申告や手続きは、専門知識と経験が不可欠です。税理士法人SWATSは法律事務所と連携し、安心のワンストップ対応を実現しています。

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